- 2024.03.14
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- 家族信託
アパート管理に家族信託を利用する
アパートの経営者が家族信託を利用する場合、アパートの所有者(親)が委託者となり、家族のうち一人(子)を受託者としてアパートの管理を任せることになります。
アパートを信託財産にすることには様々なメリットがあります。 認知症になると契約行為ができなくなりますので、アパートの経営者が認知症になると経営を続けていくことは難しくなります。家族信託を利用することで受託者が委託者に代わってアパート経営を続けていくことができます。
受託者による経営の自由度は契約内容によって変えることができます。判断能力はしっかりしているが高齢でアパート管理がきつくなってきたということであればアパートの管理のみを信託契約の内容とする、認知症を発症したという場合であれば管理のみならずアパートのリフォームや買い替え、新たな借り入れをして新しいアパートを建築する等を含む全ての権限を与えるという契約をすることが考えられます。
成年後見制度との違いは、成年後見制度は本人の財産や生活を守ることが目的であることからアパートを売却するにあたっては生活費や医療費捻出のためなど売却の必要性や相当性が求められるため、例えば更に利回りのいい物件に買い替えを行うなどはできず、家族信託に比べて自由度が低いです。
アパートを信託財産とした場合には、賃貸人としての地位や権利義務を受託者が引き継ぐことになります。受託者は、入居者と賃貸借契約を結ぶ、アパートの修繕を業者に依頼する、家賃の振込口座の管理をするなど委託者が行ってきたアパート経営を信託行為として行っていくことになります。
家族信託の目的となった財産は、その所有権が委託者から受託者に移転します。法務局で所有権の移転登記を行うと信託財産は委託者の財産とは切り離されることになります。また、所有権は受託者に移転しますが、受託者の固有財産とは区別して管理されるため、受託者自身の財産とも異なり、さらに受益者からも独立した「誰のものでもない財産」という特殊な財産となります(信託財産の独立性)。その結果、委託者や受託者が破産した場合でも、その債権者は信託財産を差し押さえることはできず、その財産は保全されます。これを信託財産の倒産隔離機能といいます。
ただし、信託財産から生じる利益を受け取る権利(受益権)に対して、受益者の債権者は差し押さえが可能です。また、受益者が破産した場合、受益権は破産財団に組み入れられますので、所有権やその他の債権と同様に破産管財人が換価処分をしたうえで債権者への配当に回されることになります。
もうひとつ注意すべき点として、信託財産の年間収支がマイナスとなっても、その損失額を信託以外の利益と損益通算することができません。これを不動産信託の損益通算禁止といいます。信託不動産たるアパートについて大規模修繕をするなどして信託財産の年間収支がマイナスとなった場合、受益者たる親の確定申告においてその損失額を所有権不動産から生じた利益と通算して利益を圧縮することはできません。そして税法上損失がなかったものとみなされる以上、翌年以降にその損失を繰り越すこともできません。反対に信託不動産から生じた利益は所有権不動産と損益通算することはできます。
また、受益者が同じ複数の不動産信託契約について1年間の収支計算は信託契約ごとに完結させなければならず、複数の契約をまたいで損益通算をすることはできません。つまり、複数の信託契約すべて年間収支がプラスであれば合算して確定申告すればよいですが、年間収支がマイナスの信託契約があっても他の利益と通算できないことに注意が必要です。同じ信託契約で複数の不動産を信託財産とされている不動産の損失については損益通算が可能です。
アパート管理に家族信託を利用する場合、契約内容については法律上の観点からも税務上の観点からもご家族毎の様々な事情を考慮して契約内容を決める必要がありますので、ご検討の際はぜひ専門家へご相談ください。