- 2024.03.14
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- 家族信託
家族信託で後継ぎ遺贈を実現する
後継ぎ遺贈とは、「自分の死後は子どもに、子どもの死後は孫に」といったように、自分の死後の財産承継を先々まで定めておくことです。しかし現実は、遺言書で「自分が死んだらこの土地は子どもに相続させる」と決めることはできても「その子どもが亡くなったら孫に相続させる」ということまで決めることができません。なぜならば、自分の相続で子どもに財産が渡れば所有権は子どもに移り、子どもの財産をどうするかは子どもが決めることだからです。
家族信託によって後継ぎ遺贈と同様の結果を実現できるのが「後継ぎ遺贈型受益者連続信託」です。上記のようなケースでは、信託契約の設定時に、土地を信託財産として委託者兼当初受益者は自分、第二受益者は長男にし、第二受益者である長男が亡くなったら受益権は孫に承継すると決めておけば、遺言書では実現が難しかった不動産の承継を実現することができます。これは唯一家族信託でのみ実現可能なシステムです。
例えば、財産管理が困難な高齢配偶者と障がいを抱える子と健常者の子がいる家族のケースでは、委託者自身を第一受益者とし、委託者が亡くなった後は高齢配偶者を第二受益者、配偶者が亡くなったら障がいのある子を第三受益者とする後継ぎ遺贈型受益者連続信託を設定します。障害のある子が亡くなった時点を信託終了とし信託に残余財産がもしあればその権利帰属者を健常者の子とすることもできます。
後継ぎ遺贈型受益者連続信託は、会社の事業承継でも活用することができます。会社の運営には自社株式だけでなく、社長個人の所有不動産を事業用に使用している場合には、当該不動産も後継者に引き継ぐ必要があります。社長個人の資産であると同時に会社の経営には欠かせない資産であり、後継者以外に相続されることや共有になることは会社の経営にも大きく影響するからです。例えば、後継者を自分の次は長男、その次は長男の子供(孫)に、と考えているケースでは、不動産の所有権が相続によって分散したり共有状態にならないよう長男を第二受益者、その子を第三受益者と指定することができます。(ただし遺留分減殺額請求権の対象となるリスクを回避するため第二第三の受託者を長男やその子供に設定して敢えて財産権である受益権のみを相続人の共有にするという方法もあります。どちらがいいかはケースバイケースです。)
また、アパート経営をしている方で、親から引き継いだ収益不動産を次の代に承継していきたいという場合にも活用できます。例えば、自分が死んだら同居する長男夫婦に祖先からの不動産を承継させたいが、長男夫婦に子供がいないので、長男夫婦亡き後は長男配偶者の家族ではなく二男の子どもに確実に承継させたい、といった場合にも対応することが可能です。
受益権の承継回数について制限はありませんが、永遠に定めることができるわけではなく、信託法91条により、信託期間は信託がされたときから30年を経過後に財産権(受益権)を取得した受益者が死亡するまで、または当該受益権が消滅するまでとされています。つまり30年を経過した後は受益権の新たな承継は一度のみとなります。なお、信託設定時において受益者が現存している必要はありませんので、まだ産まれていない孫や甥姪を第二第三の受益者として定めることも可能です。
最後に、後継ぎ遺贈型受益者連続信託により世代を超えた円滑な財産承継や事業承継を実現することが期待されますが、家族信託を利用した場合でも遺留分の問題が残ることに注意が必要です。ご検討の際は是非司法書士等の専門家へご相談ください。