- 2024.03.14
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- 家族信託
農地を家族信託する方法
農地は「農地法」という法律で規制されており、所管の農業委員会の許可または届出手続きを経なければ農地を信託財産に入れることはできません。農地は原則として所有者が農業従事者として耕作するか小作人に耕作させるかの二択であり、農業従事者でない子に信託で財産管理を託すという概念はありません。農地法上も農地を信託することは、農業協同組合等が引き受ける場合を除き原則禁止されています。
しかし、高齢の所有者が認知症などで宅地への転用や売却等の手続きが自らできなくなる事態に備えたいという理由で他の財産と同様に農地も家族信託の信託財産に入れたいというニーズは少なくありません。
農地を農地の状態のまま家族信託する場合には農地法第3条の許可が必要となりますが、信託の受託者となることができるのは上記のとおり農業協同組合など一定の法人に限定されているため、子など家族を受託者とする信託では許可を得ることは難しく、結果として信託を行うことはできません。
どうしても農地を信託したいということであれば農地から宅地に転用する必要があります。この場合、農地法に基づく農業委員会の農地転用許可等の手続きを経たうえで家族信託をすすめることになりますが、手続きを経るまでは農地部分について信託契約の効力は生じないため、農地についての部分だけ農業委員会の許可等を得ることを条件とする条件付き信託契約を締結することになります(農地以外の金銭、不動産等を合わせて信託財産とする場合、農地以外の部分については契約時点から効力を発生させることは可能です)。
この条件付信託契約については、市街化区域(農地を積極的に宅地化しようというエリア)と市街化調整区域(農地を積極的に守っていこうというエリア)で農業委員会の手続きが異なります。
市街化区域は農業委員会に届出をすれば条件が成就できるので委託者と受託者の連名で農地法第5条の届出(転用目的権利移転)をすることで信託登記が可能となります。
市街化調整区域は、農業委員会の許可が必要ですので、許可を得て非農地化や売却をすることになります。その方法は2つあり、ひとつは信託契約前に農地の所有者本人(家族信託の委託者である親)が宅地に転用する「農地法第4条転用」です。もうひとつは先に信託契約に伴い農地の所有権を受託者(子)に移転させ、その後に受託者が宅地に転用するという「農地法第5条転用」の方法です。
農地法第4条転用は、現所有者である親が自ら非農地化や建物建築を行います。農業委員会の許可を得た後に親自身が非農地化と建物建築(宅地にする場合、建物建築が必要条件となります)を行い、建物完成後に地目変更登記→信託契約→受託者による財産管理という形になるため、建物完成時まで親の判断能力が求められることになり、親の認知症対策としては間に合わないリスクもあります。
農地法第5条転用は、受託者である子が非農地化と建物建築を行う場合で、農業委員会の許可を得た後に信託契約を行い、その後受託者が非農地化と建物建築→地目変更登記→受託者による財産管理という形になるため認知症対策としては農地法第5条転用の方法がおすすめです。
ただし、市街化調整区域では宅地転用が認められないことが多く、また農地の相続は遺産分割でトラブルになることも多いため、実務上は信託契約が発効しない場合に備えて遺言書を併用し2段構えで承継者指定をすることもあります。詳しくは司法書士等の専門家へご相談ください。