- 2024.03.14
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- 家族信託
事業承継に家族信託を活用する
家族信託を使って事業承継の様々な問題にも対策することができます。その中でも特に大きな問題は現経営者の自社株の承継先の問題と経営者の認知症リスクの問題です。
まず自社株の承継の問題ですが、中小企業では経営者自身が自社株式の多くを有しており、経営者兼会社オーナーであるケースがほとんどです。会社の経営権は議決権のある株式を所有している割合で判断することが多いため事業承継をするためには基本的に現経営者が有している株式を後継者に承継させる必要があります。
自社株の後継者への譲渡はケース毎に解決すべき様々な問題点があります。株式を無償譲渡するとなりますと受け取る後継者に贈与税が課税されますし、適正な対価を支払うとなりますと長年にわたって利益を積み上げてきた会社では株価が高額になっていることがあり、後継者側に大きな資金が必要になります。一度に贈与してしまうと大きな税負担となりますが、暦年贈与するとなると長い年月を必要とします。また、万が一株式を譲渡した後に後継者が不適格であると気づいた場合でも株式を返還してもらえる保証はありません。仮に現経営者の財産の大部分が自社株式である場合は無償譲渡しますと後継者が他の相続人から遺留分侵害額請求を受ける可能性もあります。
また、もし生前に自社株式の承継先を決めずに現経営者に相続が生じた場合、自社株式は相続人に相続され、相続人全員の合意によって遺産分割の手続きを行う必要があります。相続人の合意がまとまらなければ自社株式は相続人全員が共有した状態のままになるため、役員の人事や会社の重要な事項の決定にも相続人全員の合意が必要になってしまいます。もし相続人全員の意思が合致している状態であったとしても、そのうち一人でも認知症を発症した方がいると法的な行為ができなくなるため、遺産分割や会社の重要事項の決定に支障が生じる場合があります。
次に経営者の認知症の問題です。経営者が株式を保有したまま認知症を発症し判断能力が無くなってしまったら、役員の人事や会社の重要事項の決定は行えなくなります。そのため、経営者が認知症になるリスク対策も必要になってきます。
そこで、現経営者の自社株を後継者に信託することにより、以後の議決権行使を現経営者にかわり後継者が行うことができます。仮に現経営者が認知症になってしまった場合でも後継者により安定的に議決権を行使することができるようになります。
自社株から生じる配当金は現経営者が受け取ります。つまり、信託することで自社株の議決権は後継者へ、配当金等を受け取る権利はオーナーである現経営者へもともと2つあった権利を分離することができるのです。これにより譲渡資金の問題や贈与税の問題をクリアすることができます。
また、信託はしたいが後継者に全面的に議決権を行使させるのは不安、信託後も現経営者が議決権を行使したいという場合、現経営者に議決権行使等に対する指図権を設定しておくことができます。指図権とは、受託者に信託財産の管理や処分等の指図ができる権利のことをいます。指図権を持った現経営者は後継者に対して議決権の行使についての指図ができるようになるため、引き続き会社の経営に携わることができます。そうすることで、現経営者が元気な間は議決権行使や株式の売却をコントロールすることができます。
家族信託では、後継者候補に議決権を持たせた後に会社の経営を行わせてみて、もしも後継者が不適格であると判断した場合には信託契約を解除することができます。後継者が持っていた株式の経営権は元の持ち主である現経営者へ戻り贈与税も資金も不要です。その後に他の後継者候補と改めて信託契約を締結し事業承継を再度試すこともできます。そのためには後継者不適格と判断した場合には委託者のみで信託契約を解除できる旨を信託内容に定めておく必要があります。
自社株の承継先については、信託契約の中で現経営者が亡くなった場合の承継先を定めておくことにより現経営者に相続が生じた場合でもスムーズに自社株の承継ができます。遺言では次の後継者までしか指定することができませんが、家族信託ではそれ以降の後継者まで指定することが可能です。つまり、遺言で後継者を指定した場合、その後継者が死亡した際には株式は相続されることになりますので思いもよらない人が次の後継者になる可能性がありますが、家族信託では「現経営者の直径血族に受益権を代々承継させる」等の内容を信託内容に含めておくことで次世代移行の後継者を指定することが可能です。さらに、議決権と財産権を分ける機能を利用して、現経営者が亡くなったときは経営権を後継者に、財産権を相続人に等分に分けるといった具合に信託契約に定めておくことで遺留分減殺額請求や争族のリスク対策もできます。
家族信託は、それぞれのケースにあった形を柔軟に設計することができます。ご検討される際はぜひ司法書士等の専門家にご相談ください。